酒呑みの父とわたし

わたしの父は酒呑みだ。

「酒呑みの父」と言ってもこれは父がアル中で家族が不幸だったとか言う話では全くなくて、むしろお酒を呑むことが大好きな父とわたしの微笑ましい話だと最初に伝えておこうと思う。

父は昔からお酒を呑むのが好きな人で、外ではもちろん、仕事から帰ってくれば毎日家でも晩酌。母は父以外の家族用と、父用の酒の肴と毎日2パターンの夕食を作っていて、お年頃になる前のわたしや妹は父が帰ってくるとそのおつまみを狙って群がっていた。忙しく仕事をしていた父と食事の時間が合わなくても、家族団欒がそこにあったと思う。

家族で出かければ、食事に行くのは父が行きつけにしている焼き鳥屋さんや町中華、お蕎麦屋さんで、所謂レストランや小洒落たお店にはほとんど行ったことがない。

小学校中学年くらいからはより高度なお店にも連れて行ってもらうようになった。例えば立ち食い蕎麦屋さんや立ち飲み屋さん、カウンターのお寿司屋さん、雑居ビルの地下でタバコ臭い純喫茶(父はお酒は呑むがタバコは全く吸わない)。どのお店も子どもなんて自分しかいないからか、お店の人にも周りのお客さんにも良くしていただいた記憶がある。

流石に中学生くらいになると、友達と遊んだり塾に行ったりと忙しくなって、父と父の行きつけのお店に行くことはあまりなくなってしまったが、わたしが二十歳を過ぎた後に父と出かけた2つのお店は特に忘れられない。

ひとつは二十歳を過ぎたことでお酒が一緒に呑めるようになって早々、父に連れて行ってもらった呑み屋街にあるカウンターの小料理屋。ママがひとりで切り盛りする7-8人でいっぱいになってしまうようなお店で、父はママや父のことを知っている常連さんにちょっと自慢げに娘であるわたしを紹介するので、すごく気恥ずかしかった。けれど連れて行ってもらえたことが、大人になったということを認められたようで(父には言わないけれど)すごく嬉しかったことを覚えている。

もうひとつは、父の出身県内のとある地方都市の呑み屋街にあるスナックだ。スナックと言ってもお姉さんとカラオケをするようなお店ではなく、凛とした和服のママがひとりでカウンターにいるバーのようなお店だった。ちゃんとした夜のお店に行くことも初めてだったし、自分の父親と女性のいるお店に行くというのも初めてでひどく緊張したけれど、そういうお店にも連れていけると思ってもらえたことを少し誇らしく思った。そして父が堂々と娘を連れてこれるということは、おかしな呑み方をしてきていないということだと思うので安心したし、お酒ってこういう風に楽しむものなんだなと、教えてもらったような気がした。

父もだいぶ年齢を重ねて、昔ほどはお酒も呑まなくなっている(とは言え毎日呑んでいるらしいが笑)。実家を出てからは、一緒に呑むことはあまりなくなってしまった。たまには父が好きそうなお店に誘って、楽しく呑めるうちに一緒にお酒を呑みたい。2022年の父の日を目前に、この記事を書きながらしみじみ想った。